肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン

はじめに

 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症は,欧米では三大循環疾患に数えられる非常に頻度の高い疾患であり,近年,わが国でも決して少なくないことが明らかにされつつある。特に,手術後や出産後,あるいは急性内科疾患での入院中などに多く発症し,時として不幸な転帰をとることから,その発症予防が非常に重要となっている。このため,各関連領域の専門家により肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の予防に関するガイドラインを策定するための委員会,すなわち,肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会が組織された。本委員会は,日本血栓止血学会,日本産科婦人科学会,日本産婦人科・新生児血液学会,日本集中治療医学会,日本静脈学会,日本心臓病学会,日本整形外科学会,日本泌尿器科学会,日本麻酔科学会,肺塞栓症研究会から推薦された作成委員21名と事務局1名により構成され,うち12名を草案作成のための実務委員として選出し,平成13年11月から2年以上にわたり検討を行ってきた。さらに,本ガイドラインは,本委員会が指名した8名の外部評価委員の校閲を経た後に再検討され,委員全員の合意の下に完成された。
 本来は,わが国における臨床研究の結果に基づいた予防ガイドラインの策定が必要とされるが,現時点では,肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の予防に関してのわが国におけるエビデンスは極めて乏しく,わが国の臨床試験のみでの策定は非常に困難である。よって,本ガイドラインは,American College of Chest Physicians (ACCP)の Consensus Conference on Antithrombotic Therapy1) や International Union of Angiology が中心となった International Consensus Statement2) などによる予防ガイドラインを参考とし,日本人の疫学的データもできるだけ多く収集して欧米人のそれと比較検討することにより,現時点で日本人に最も妥当と考えられる予防法を提言した。予防法に関しては,合併症が少ないとされる理学的予防法は保険適用の有無にかかわらず推奨したが[2004年度の診療報酬改訂において「肺血栓塞栓症予防管理料」が新設された。病院(療養病棟,結核病棟および精神病棟を除く)または診療所(療養病床にかかわるものを除く)に入院中の患者であって肺血栓塞栓症を発症する危険性の高いものに対して,予防を目的として,弾性ストッキングまたは間欠的空気圧迫装置を用いて計画的な医学管理を行った場合に,入院中1回に限り算定できる。]出血等の合併症を考慮しなければならない薬物的予防法は保険適用薬剤のみを推奨することとした。しかし,わが国での保険適用はないが欧米で有用性が確認され広く使用されている薬剤に関しても参考として言及した。
 本ガイドラインは,種々の状況に対応しうる普遍的な予防指針の作成を目標としているが,全ての患者に対する予防選択を画一的に簡素化することは困難である。個々の患者に対する予防法は,担当医師と患者の双方の合意により総合的に決定され,最終的には,担当医師の責任と判断の下に施行されるべきものである。本ガイドラインは,あくまでそれを支援するための指針に過ぎないことを明記しておく。また,肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症に関する日本人の臨床データは今後報告が急増することが予想され,本ガイドラインも適宜改訂されるべきものである。



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