第 7 回 ACCP ガイドライン
「静脈血栓塞栓症の予防」および「妊娠中の抗血栓薬の使用」


発刊にあたって

 静脈血栓塞栓症は入院患者の予後を左右する重大な懸案事項です。考えられていた以上に日本人での発症頻度は高く,最近では稀な疾患からよく遭遇する疾患へと認識が変わりつつあります。
 発症頻度が高い欧米では,膨大なエビデンスに基づき,静脈血栓塞栓症の予防ガイドラインが作成されてきました。一方,これまでわが国には体系的な予防指針はありませんでしたが,臨床医師の関心は年々高くなっており,ガイドラインの策定が待ち望まれていました。この様な状況のもと,肺塞栓症研究会を含めた複数の関連学会により肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会が組織され,2004 年春にわが国で最初となる予防ガイドラインが完成いたしました。
 日本人を対象としたガイドラインの策定には,もちろん日本人のエビデンスが必要です。しかし,この分野での日本人に関する研究はきわめて少ないのが実情です。今回のガイドライン策定では日本人の情報をできる限り集めているものの,欧米の予防ガイドラインを基本モデルとし,それをわが国の実情に合わせて改変するという方法で作成されました。出血性合併症を考慮すべき薬物的予防法は,現状では抵抗が大きいこともあり,弱い推奨となっています。さらに,保険適用薬剤のみが推奨されており,欧米の標準的予防薬である低分子量ヘパリンや Xa 阻害薬は含まれていません。
 しかし,このような発展途上にある予防対策ですが,臨床現場での成果は確実に現れています。例えば,三重大学附属病院では 2003 年 7 月から「肺血栓塞栓症予防マニュアル」を策定し,病院全体で運用しています。これまで院内で年間 10.5 例の症候性肺血栓塞栓症が発生し,年間 0.5 例が死亡していました。しかし,予防マニュアル導入後は,症候性肺血栓塞栓症は年間 1.2 例となり,致死例は全く発生していません。
 一方,リスクが高い症例に対する予防はまだ十分とはいえません。最高リスク群においても理学的予防のみで対応されることが多いようです。また,領域間での取り組みの差も大きく,外科系診療科での予防対策は著しく進歩しましたが,内科系臨床科の認識は大きく遅れています。
 このたび,第 7 回 ACCP Consensus Conference「静脈血栓塞栓症の予防」と「妊娠中の抗血栓薬の使用」ガイドライン日本語版の監修,監訳を,肺塞栓症研究会として引き受けさせていただきました。本症の予防理論を理解しわが国に適した指針を確立していくうえで,欧米のガイドラインを研究することはたいへん重要なことだと考えます。ACCP の予防ガイドラインは欧米でもっとも信頼されている指針であり,わが国の予防ガイドラインもこれを参考として策定されています。本書の監訳にあたられた先生方の尽力に感謝を申し上げるとともに,この ACCP ガイドライン日本語版により医療関係各位の理解がより深まり,将来,理想的な静脈血栓塞栓症の予防対策が行われていくことを願ってやみません。

肺塞栓症研究会 代表世話人

三重県病院事業庁・三重大学名誉教授
中野 赳



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