改訂版の序
改訂版 小児心臓麻酔マニュアルの発行にあたって
私が小児心臓麻酔や集中治療を目指して約 25 年になるが,小児心臓麻酔や周術期管理は素晴らしい発展を遂げた。20 世紀にはほとんど助けることが出来なかった左心低形成症候群(HLHS)の患者さんも,近年では多くが助かるようになった。日本のこの分野の手術成績は飛躍的に向上し,世界のトップクラスに並ぶまでになった。しかし,本邦ではこの分野に進出する麻酔科医・集中治療医は未だ少なく,今後の発展のためにはこうした医師の増加が望まれる。
術中管理において近年の成績の向上に最も貢献したのは,経食道心エコー検査(TEE)であろう。術後の残存病変を直後に発見し,より良い手術をしてもらうことは患者にとって何より重要である。心臓内の空気除去も正確に行えるようになった。一酸化窒素(NO)吸入療法,窒素療法,PDE V阻害薬,経口肺血管拡張薬などの登場も,周術期に大いに貢献した。
先天性心疾患患者の約 90 %が成人する時代となり,「成人先天性心疾患」という分野が顕在化した。既に成人先天性心疾患患者は 40 万人を突破し,20 歳未満の小児患者は約 20 万人で一定であるので,先天性心疾患のより多くの患者は成人という時代を迎えつつある。今までは大人の後天性心疾患の麻酔や周術期管理は得意であるが,先天性心疾患は不得意であるという麻酔科医・集中治療医も多かった。今後は,こうした医師も先天性心疾患を理解することが必要な時代になるであろう。
この「改訂版 小児心臓麻酔マニュアル」は,先天性心疾患に興味を持つすべての医師,看護師やコメディカルの第一歩の周術期管理マニュアルとして,最適の書である。是非,PICU などのベッドサイドや座右に一冊置いて頂きたいと考える。
2017 年 1 月吉日
自治医科大学
麻酔科学・集中治療医学講座 教授
竹 内 護